禁煙外来
ニコチン依存症は、喫煙習慣が脳の報酬系に強く作用し、身体的・精神的にニコチンを必要とする状態になる「病気」です。単なる癖ではなく、医学的に治療が必要な依存症です。
🚬ニコチン依存症とは
ニコチン依存症とは、たばこに含まれるニコチンに対して身体的・精神的な依存状態が形成され、自分の意思だけでは喫煙をやめることが困難になる疾患です。ニコチンは肺から吸収され、数秒で脳に到達し、ドーパミンなどの快楽物質を放出させることで一時的な気分の高揚や集中力の向上をもたらします。
しかしこの効果は短時間で消失するため、再びニコチンを求める「強い欲求」が生じ、喫煙を繰り返す悪循環に陥ります。
😣主な症状(離脱症状)
禁煙やニコチン切れの状態になると、以下のような離脱症状が現れます:
強い喫煙欲求(タバコが吸いたくてたまらない)
イライラ・不安・落ち着かない
集中力の低下・抑うつ気分
頭痛・倦怠感・眠気
食欲増加・体重増加
便秘・消化不良・血圧低下
これらの症状が不快であるため、再び喫煙してしまう「負の強化」が依存を深めます。
🧪診断と評価
ニコチン依存症は、医療機関で以下のような方法で診断されます:
FTND(Fagerström Test for Nicotine Dependence):依存度を数値化する質問票
TDS(Tobacco Dependence Screener):精神依存の評価
- 自分が吸うつもりよりも、多くタバコを吸ってしまうことがありましたか。
- 禁煙や本数を減らそうと試みて、できなかったことがありましたか。
- 禁煙したり本数を減らそうとしたときに、タバコが欲しくて欲しくてたまらなくなることがありましたか。
- 禁煙したり本数を減らしたときに、次のどれかがありましたか。(イライラ、神経質、落ちつかない、集中しにくい、ゆううつ、頭痛、眠気、胃のむかつき、脈が遅い、手のふるえ、食欲または体重の増加)
- 問4でうかがった症状を消すために、またタバコを吸い始めることがありましたか。
- 重い病気にかかったときには、タバコはよくないとわかっているのに吸うことがありましたか。
- タバコのために自分に健康問題が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか。
- タバコのために自分にいわゆる禁断症状が起きて、また吸うことがありましたか。
- 自分はタバコに依存しているとかんじることがありましたか。
- タバコが吸えないような仕事やつきあいは避けることが何度かありましたか。
以上の質問に、はい-いいえで答えていただき、はいが5つ以上ある方はニコチン依存症の状態にあると考えられます。
CO濃度測定:
呼気中の一酸化炭素濃度で喫煙状況を把握
💊治療法
ニコチン依存症は、禁煙外来での治療が保険適用される疾患です。主な治療法は以下の通りです:
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薬物療法:
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ニコチンパッチ・ニコチンガム(置換療法)
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バレニクリン(チャンピックス):ニコチン受容体に作用し、欲求を抑える
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行動療法・認知療法:
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喫煙習慣のトリガーを認識し、対処法を学ぶ
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医師・看護師・薬剤師による支援:
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定期的なフォローアップと心理的サポート
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📌禁煙治療の保険適応について
ニコチン依存症と診断されていること → TDS(Tobacco Dependence Screener)というスクリーニングテストで5点以上が必要です。
35歳以上の方はブリンクマン指数が200以上であること → ブリンクマン指数=1日の喫煙本数 × 喫煙年数 例:20本/日 × 10年=200
直ちに禁煙する意思があること → 医師の説明を受けたうえで、禁煙治療を受けることに文書で同意する必要があります。
「禁煙治療のための標準手順書」に則った治療を受けること → 通常は12週間に5回の治療プログラムが標準です。
保険適用外になるケース
過去に禁煙治療を受けたことがあり、前回の初診から1年未満の場合
ブリンクマン指数が200未満(35歳以上)かつTDSが5点未満
禁煙の意思が不明確な場合
🩺禁煙外来治療の流れ
禁煙外来では、以下のような治療を段階的に行います:
1.初診(第1回)
- 喫煙状況の確認(喫煙本数・年数)
- ニコチン依存症の診断(TDSスクリーニング)
- 呼気一酸化炭素(CO)濃度測定
- 禁煙の意思確認と治療計画の説明
2.薬物療法の開始
- バレニクリン(チャンピックス):ニコチン受容体に作用し、喫煙欲求を抑える
- ニコチンパッチ・ガム:ニコチンを少量補給し、離脱症状を軽減
※薬剤は医師の判断により選択されます。
3.再診(第2~5回)
- 治療経過の確認(CO濃度、離脱症状、喫煙状況)
- 行動療法的支援(喫煙のきっかけや対処法の指導)
- 禁煙継続のためのアドバイス
治療期間は約12週間で計5回の診察が標準です。
💰費用について(保険適応時)
保険診療の場合、自己負担額は以下の通りです(3割負担の場合):
| 治療内容 | 自己負担額(目安) |
|---|---|
| 初診+薬剤処方 | 約3,000〜4,000円 |
| 再診(1回あたり) | 約1,500〜2,000円 |
| 総額(5回通院) | 約12,000〜20,000円程度 |
⚠️禁煙治療の注意事項
1.禁煙の意思を明確にすること
治療開始前に「禁煙する意思」があることが前提です。
一時的な興味や家族の勧めだけでは継続が難しくなるため、自分自身の動機づけが重要です。
2.治療期間中は完全禁煙を目指すこと
治療中に「少しだけ吸う」「本数を減らす」などの行為は、薬の効果を妨げる可能性があります。
ニコチンが体内に残っていると離脱症状の評価が難しくなります。
3.薬の副作用に注意すること
バレニクリン(チャンピックス)では、吐き気・頭痛・不眠などの副作用が報告されています。
ニコチンパッチやガムでは、皮膚のかぶれや口腔刺激が起こることがあります。
副作用が強い場合は、医師に相談のうえ薬剤の変更や中止を検討します。
4.定期的な通院を守ること
禁煙外来は通常5回の通院(約12週間)で構成されており、途中で中断すると成功率が低下します。
再診では呼気CO濃度や離脱症状の確認、行動支援が行われます。
5.飲酒やストレスに注意すること
飲酒は喫煙欲求を高めるため、治療期間中は控えることが望ましいです。
ストレスや習慣的な喫煙環境(例:職場、友人)への対処法を事前に考えておくと効果的です。
6.再挑戦は可能であることを理解する
禁煙に失敗しても、1年以上経過すれば再度保険適用で治療を受けることができます。
禁煙は「一度で成功する人」より「何度も挑戦して成功する人」が多いです。